日興證券の創設者・遠山元一邸宅、登録有形文化財に指定された和風建築。
都会の喧騒からはほど遠い埼玉県比企郡の田園地帯に、氏のコレクション
が収蔵された美術館とともに、遠山記念館として公開されています。
母、美以のための邸宅は、2年7ヶ月の歳月をかけ、昭和11年4月竣工。
建築家は室岡惣七。大工棟梁は中村清次郎、と記してありました。
未公開の二階に洋間も存在するようですが、純粋な和風建築といっていい。
西棟_中棟_東棟 と 三つの棟はそれぞれ、
数寄屋造_書院造_囲炉裏や茅葺屋根の小屋裏を表しにした田舎風‥ と、
バリエーションをもたせた構成となっている。ただ、そればかりじゃない。
壁仕上、畳、欄間装飾、廻縁竿縁を含む天井貼‥ 全ての部屋で違う仕様。
外観からも、手摺の形状や欄間。屋根も、茅葺の屋根と日本瓦の屋根には
ソリとムクリが混在する。いはば、建築のジャム・セッションの様相です。
施工に携わった職人たちの間には、技の競い合いもあったかもしれません。
和の空間を作り出すためには、各寸法にキメごとが存在します。たとえば、
平面が尺・寸のモジュールであることはもちろん。鴨居の高さ=五尺八寸。
長押の見附=柱の幅で、交点は長押が勝つ。
鴨居や無眼の見附=柱の幅×1/3~1/2で、交点は柱が勝つ。
キメごとが忠実に守られていることで緊張感を保ちつつも、奔放な自由さ
で統一感を失わない。むしろ、上品な躍動感を感じる空間。
そして、大切にケアされ、長く存在することによって生まれる価値がある。
住宅建築が、商品として存在している今日でも、忘れないでいたいですね。