2015年12月30日水曜日

狭小地での集合住宅計画・木造重層長屋(続)

狭あい道路の端部・19坪ほど住宅地を有効活用させた 木造集合住宅
厳しい条件の中、重層長屋形式とすることで4住居を実現させました。
この半年。計画はすすみ、現在、実施設計進行中。(詳細はこちら。)

来春早々には建築確認申請の予定です。
2016年 スタートの仕事となります。

みなさまも よいお年を。


2015年12月28日月曜日

新国立競技場(続)‥『緑』は必要なのでしょうか?

新国立競技場計画。隈研吾氏のA案に決まり、一週間ほど経ちました。
この計画案。私的にまだ、ちょっと腑に落ちないところがあります。

今月。JSCより候補のA案・B案2案のパースが発表されたおり、私は
A案の方は伊東豊雄氏の案だろうな、と考えていました。この10月、
都内で開催された伊東豊雄氏の講演で紹介されていた、シンガポール
で建設された氏の設計による超高層ビルを思い出したからです。

全体を自然の樹木で包まれた、高層オフィスタワーでありました。

建物(ましてや高層建築)に自然の緑をほどこせば、メンテナンスの
費用が当然掛かります。その費用を差し引いても、建物の付加価値が
上がり、賃料や入居率の面で収益性が高くなるだろう‥という建主の
判断があったのでしょう。ビジネスです。明快ですね。
民間の環境への貢献は、事業性と両輪をなしていなくては続きません。

かたや 新国立競技場 は公共事業です。
限られた1500億あまりの予算の多くは、税金(血税)です。
もちろん、都内に緑が多いことは、素晴らしいことだと思います。
ただ、都内に緑を増やすのであれば、都の条例等を改正して設置義務
の建物を増やせば、予算を掛けずにできることです。
スタジアムに緑がなくっても、競技はできます。五輪も開催できます。

〝いや、それでも競技場の予算で緑を植えることは必要なのです!〟
隈研吾氏には 必ず その信念があるはずです。建築家ですから。
そのメッセージ。そして、それに対する賛否に対する議論があって
初めて 選ばれるべきなんじゃないでしょうか‥?

建築学科の学生か作った課題への採点表のようなものなら、不要です。
建築を作る、ということは、建主の要求や予算と向き合うことです。
公共事業であれば、建主は、回り回って納税者となるはずです。
私も建主の一人として、現状のプレゼンでは、建築家に言うでしょう。
〝 緑はやめて、その分予算を抑えてください。 〟 と。

作品に込められたメッセージ。
まだ、いまいち伝わってない。

2015年12月24日木曜日

新国立競技場

白紙撤回となっていた 新国立競技場計画
日本スポーツ振興センター(JSC)は、今月14日に発表されたA案・B案から
隈研吾・大成建設チームのA案を採用する旨政府へ答申、了承されたとのこと。

当初、新聞紙面等に掲載されたのA案・B案のパースから受けていた私の印象は
両案とも、スタジアム建築としてのコンセプトが、表層のデザインにとどまって
しまってやしないかな、ということ。
例えば、前回の東京五輪で会場として建設された丹下健三氏の代々木体育館や
撤回されたザハ氏の計画案では、大空間の構造体をどう構成し、造形美として
昇華させるか、というダイナミックな発想が見受けられました。
予算や工期の関係で、屋根は観客席部分のみ、と設計要件が変更となったこと
の影響でしょうが、それなら 旧国立競技場の改修計画でよかったんじゃない?
‥と いまさらながらに 思えてました。

先月、将軍・徳川家のゆかりの方の講演を聞く機会がありました。
そもそも、東京(江戸)という町は、稀有なエコ志向の都市であったそうです。
衣類は裁断して、布巾・雑巾・しまいにはオシメとしてまで活用してから廃棄。
人糞まで、肥料として完全に活用しきっていたとのこと。
東京で開催する五輪のアイデンティティーや、コンパクト五輪の理念で言えば
旧国立競技場の再活用こそ、目玉になりえていたかもしれません。


隈研吾・大成建設チームの受注に関しては
A案・B案の発表の前から建築関係者の間に、いろいろ憶測が流れていました。
私自身は、無責任な発言は慎みたいと思います。
ただ今回、A案が選ばれた大きな理由が、工期と予算であったとのこと。
であるならば、ザハ氏側が、あれだけYouTubeも含めたあらゆるメディアで、
工期と予算を遵守した修正計画をやります!と言っていたですから、そのまま
責任持たせてザハ氏に任せてもよかったじゃない?これまた、いまさらですが。

選考過程が、政治的思惑のない クリア なものであったことを願います。

※画像はネット内にあり、すでに公表されているもの。ご了解のほど。

2015年12月21日月曜日

FOUJITA

FOUJITA はパリで活躍した日本人洋画家・藤田嗣治を描いています。
監督は小栗康平、藤田役はオダギリ・ジョー。静かな佳作でありました。

映画館に足を運んだきっかけは、BSNHK『英雄たちの選択』という歴史番組で、
太平洋戦時中に描かれた『アッツ島玉砕』という藤田の傑作を知ったことでした。
そこには、印象的で独特の乳白色を基調とした、藤田の作風はありません。
屍の山に銃剣で切りつける兵士達。悲惨で残忍な戦場の狂気を表現しています。
戦時中、一時帰国し、戦意高揚を目的とする戦争画の製作を軍部から依頼されて
描かれた『アッツ島玉砕』は、むしろ反戦への無言のメッセージとなっています。
戦後の状況に嫌気がさした藤田は、フランスに戻り二度と日本の地を踏みません。
最晩年、制作に取組んだ礼拝堂の壁画。キリストに祈りを捧げる人々の列の中に
自らの自画像を埋め込み、静かに世を去ります。

そんな 予習 がなければ、少し印象の違う映画であったかもしれません。
戦前の彼の制作活動。戦時中の彼の仕事。ただ、このふたつを並べただけです。
淫靡で破天荒なパリでの生活と、戦時中の日本での抑圧された思想。
ことのほか、これらを比較し、強調した表現をしているわけでもありません。
勇ましい弁舌や戦闘シーンがあるわけでもありません。

小栗康平監督の映画は 他に『泥の河』と『眠る男』を観ていますが、どちらも
静かに流れる絵画のような作品だったと覚えています。この FOUJITA も同じ。

ゆっくりと 流れるような台詞回し。
美しい日本の風景と、シンメトリーを基調とした構図の多用。
フェルメールやレンブラントを思わせるような光と闇の表現。

静かに それゆえ 力強い反戦へのメッセージです。


2015年12月20日日曜日

スクエアな構図


iPhoneの写真の設定が、知らぬ間に スクエア になってます。
思い立っては撮影してるスナップを見てみて気が付きました。
Instagramのためでしょうか、(私はアカウント持っていなので、
よくわかりませんが‥。)この構図もなかなかいいですね。
アナログ時代のファイルでは、ブローニーの6・6(6cm×6cm)
となるのでしょうが、思いのほか迫っていて、いい感じです。

自生するクヌギ林と、六本木方面から渋谷へ向かう246。
両者に脈略はないのですが、自分の生活圏内にある風景として
対称的に思えるのは、このスクエアの構図もあるのでしょうか。




2015年12月18日金曜日

萌える。昭和初期の様式建築


恵比寿駅から、246沿という建材ショールームへと向かう緩やかな坂道。
ふっと。ときめきを覚えるような、粋で重厚なRCの様式建築に出会う。
校庭から元気な子供達の遊び声も聞こえる。未だ現役の小学校のようだ。

入口近くの説明プレート(2003年に渋谷区教育委員会が製作)によると
 設計者 東京市土木局建築家
 建築年 昭和7年(1932)
 文化財指定

関東大震災の復興事業のひとつとして、耐震・耐火性の高いRC建築にて
建て替えられた校舎とのこと。
当時の様式には、インターナショナル・スタイル(国際建築様式)として
装飾性の少ない機能主義的な建築と、相対して装飾性を加味した建築とが
あるとのこと。
この小学校は 後者。
そして前者の代表には、同潤会のアパート群があったのではないでしょうか。
思いを馳せてみました。

2015年12月6日日曜日

『下町ロケット』と水木しげるさんの幸福論

日曜のTVドラマ『下町ロケット』が人気です。毎週、私も楽しみにしています。
原作は池井戸潤さんの直木賞受賞作、受賞直後にも書込みした覚えがありますが
じつは 私も東京大田区の小さな町工場の出身です。

私の親父が経営していた小さな町工場では、厚版の溶断をしていました。
22mm厚以上の鋼板を厚版といい、それを火口から出るアセチレンと酸素で切断
加工します。製品は次の工程の工場に納品され、最終製品は何かはわかりません。
ですので、ドラマの舞台・佃製作所が、エンジンを作ったり、燃料バルブの特許
を持っているとは(そんな最先端の工場もありますが)少し羨ましいところです。
親父の引退後は会社法人を引き継ぎ、建築設計事務所に看板を掛け替えちゃった
親不孝者の私ではありますが、同じく“ものつくり”に関わるものとして、ドラマ
には郷愁を禁じえないところもあります。

もうひとつ。毎週日曜日、楽しみにしているものがあります。
毎日新聞の日曜版に連載中の、医師・海原純子さんのコラム『新・心のサプリ』
本日のコラムのお題が、この『下町ロケット』でした。
「ただ生活するためだけの仕事、ただ金を得るための仕事はつまらないだろう。
 夢がなければ‥」
ドラマの中で、主人公・佃航平たちが頻繁に使う この“夢”というキーワード。 
この“夢”とは何か。
海原さんが、心理学者マズローの欲求論から、ロジカルに説明されていました。
人間はまず、生理的欲求、安全欲求、愛と所属の欲求が満たされると、つぎに
社会承認欲求を求めるようになる、というのです。
称賛されたい、社会の中で場を築きたい、お金を儲けたい‥ということですね。
多くの人たちは、その欲求で人生を終えるそうです。
ただ、中には、人に評価されたり、お金を儲けることが目的ではなく、
目的に向けた努力そのものを楽しみ、しないではいられない、という人もいる。
ごく少数の 自己実現願望を目指す人たちです。

そう。ドラマの中の敵役は前者。社会承認欲求のみで生きる、しかも成功者。
佃航平たちは後者。そして、その後者に多くの視聴者が共感しているのです。

奇しくも、先日亡くなられた漫画家・水木しげるさんの 人生哲学 です。
ネット内で拡散している、この幸福の7か条に全く同じことが語られています。
(あえて、そのまま転写させていただきます。)

第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 怠け者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。

他者から評価されたい、お金を儲けたい‥。
人を貶めたり傷つけたりしない範疇で、そんな欲求もエネルギーになるのなら
あり だと、私は思っています。(一部 敵役の境地ですね。)
ただそれは、仕事そのものが楽しめていればこそ。です。
また、それを許される環境にあることにも、感謝しなくてはならないでしょう。

2015年12月3日木曜日

杭工事偽装問題と設計監理

横浜市のマンション『パークシティLaLa横浜』杭工事で起きたデータの偽装問題。
10月の発覚を機に他の数々の物件でも不正が明るみになり、社会問題化しています。
『LaLa横浜』での杭工事の工法は 旭化成建材製の既成杭(ダイナウイング工法)
つまり杭は工場で製作され、現場で掘削された杭坑道に設置する、という工法です。

私も30年程前の新米時代には、現場の管理者として杭工事の施工に携わりました。
当時の杭工法の殆どは現場形成杭。既成杭は摩擦杭等のレアケースだったと思います。
現場形成杭とは、現場で掘削された杭坑道内に鉄筋をカゴ状に組んだものを設置し、
坑道底まで挿入したトレミー菅から生コンクリートを打設する、という工法です。
つまり、現場でRC造の杭そのものを作ってしまう、ということ。
坑道の掘削方法によって、地表部分のみにケーシングを設置するアースドリル工法や
坑道内全てにケーシングを貫入させて掘削するベノト工法等がありますが、いずれも
ベントナイト液の水槽や重機、鉄筋カゴの作業場等、敷地内にある程度のスペースが
必要になります。(重機が比較的小さいBH工法等、例外もありますが。)

現在では、敷地の広さに制約が多い都心の小規模建物の杭工事は、支持杭であっても、
(主に鋼管の)既成杭(このダイナウイング工法のような)による工法が一般的です。

ただ、この『LaLa横浜』のように大規模な建物で、敷地に余裕がある計画であっても、
もう、既成杭の工法で施工するのかあ‥。(技術が進んだなあ。)
というのが、今回の杭工事データ偽装問題の報道での、最初の私の率直な感想でした。
現場形成杭であれば、掘削するバケット内に(ボーリング調査での)支持層の土壌を
実際に確認できるわけで、少なくとも支持層未到達という偽装はなかったろうな、と。

データ改竄の不正があったことは事実であり、施工者の責任追及は免れないにしても、
そもそも、この杭工法の選択に 問題はなかったのか。
あるいは、EPJ部分の手摺の2センチのズレ(これは現実にしても)が建物そのもの
の傾斜によるものなのか。(傾斜であるならば)それが杭工事の不備によるとする
ロジックが明確にできているのか‥。
『日経アーキテクチュア』(2015.11.25号)の特集記事『杭騒動・語られない真相』
のツッコミどころが実に興味深い。建築関係者には是非、一読をお勧めいたします。


私もこれまで、既成杭による設計とその設計監理をいくつも行ってきました。
旭化成建材製の鋼管の既成杭を採用し、設計監理もしてきましたが、私の物件では
不正や偽装はありえません。(流行語ではありませんが)安心してください。

EAZETという工法でした。施工計画書や施工報告書を紐解き、振り返ってみました。
ダイナウイング工法では、掘削し坑底(支持層)にセメントミルクを注入してから
既成杭の設置(坑道へ挿入)という工程ですが、EAZETは、スクリュー状のハネが
ついた鋼管杭を、オーガーで直接地盤に揉んでいき、溶接で鋼管の継手をしながら
ねじ込んでいくという工法です。

最初に施工する一本目の杭は 試験杭 となります。
この試験杭の施工では、監理者である私は、設置完了まで現場で立ち会います。

EAZETは工法上、支持層の土壌を実際に確認することはできません。
ボーリング地盤調査から想定された支持層まで実際に杭が到達し、しかるべく根入れ
が確保されたことは、オーガーに設置された計測機(回転トルク値)で確認しますが
(‥計測値は、その場でレシートのようにチャート出てきます。)オーガーを操作する
オペレーターには、体感から杭の支持層到達はわかります。
ですので、チャートは紛失しても支持層への到達は確認した。という、現場代理人の
言い分も、実はわからなくはありません。(もちろん、ダメではありますが。)

試験杭では、このトルク値を現場で生に確認することができます。
それ以後の杭施工は、支持層到達と根入れ確保の確認を、このチャートをFAXやmailで
当方(または構造設計者)の事務所に送ってもらうことで、設置完了を指示します。
(現場でこのチャートをすり替えるのは困難ですし、それをする動機もありません。)

では 実際
支持層が想定された深度まで杭を貫入しても、支持層が現れなかったら(‥トルク値が
上がらなかったら) どう対応するべきでしょうか‥。
支持層は、現地のボーリング地盤調査によって想定されたもの。地中では地層は畝って
存在しているのですから、その杭のポイントでは、もっと深い位置にあるという場合も
(レアケースですが)ありえないことではありません。

その場合は、支持層が現れ根入れが確保できる深度まで、かまわず杭をねじ込みます。
既成杭ですから、杭そのものを長くすることはできませんので、杭の設置位置(深度)
が深くなってしまいます。
その調整は、杭に絡む建物本体の基礎を、構造設計により大きくすることで対応します。


ただ、これは追加工事になります。
工期延長や工事金額の追加が発生することになりますが、いたしかたないところです。
建主の方には、受け入れていただくしかありません。
建主と請負者との間柄に、このフローが成り立たないようでは、不正は絶えません。

第三者としての設計監理者の必要性も、ご理解いただけますでしょうか。

2015年12月2日水曜日

建築家紹介のポータルサイト

このところ、新規の建築家紹介のポータルサイトへの登録のお誘いをよく受けます。
外資系のサイト等もあり、基本的に 無料で登録でくるところはお願いしています。
LIMIA  というポータルサイトに登録させていただきました。
(ここは外資系ではなく、GREEの関係の運営会社のようです。)

作品だけではなく アイデア というのも書いていただけませんか。と
電話で熱心にお願いされて それなりに作ってみました。
せっかく作ったので、このBLOGにもUPします。 以下。



『共同住宅』計画不可の敷地での『集合住宅』


いはゆるマンション等は、主要用途が『共同住宅』となります。
『共同住宅』は建築基準法上『特殊建築物』として扱われ、数々の法的制約(例えば、耐火建築物であることを要求される等)を受けることになります。条例によっては、計画そのものが制約されることもあります。その場合は、主要用途が『共同住宅』ではなく『長屋』となる集合住宅で計画する方法があります。
『長屋』とは、『共同住宅』にある共用廊下や共用階段をもたない集合住宅のことです。
『長屋』であれば『特殊建築物』となりません。通常の戸建て住宅の場合と同等の法的制約で計画することが可能です。



東京都内、超・変型地の老朽化した木造アパートの建替計画。
敷地形状が路地状であることから、東京都安全条例の規定により『共同住宅』の計画は不可。
金融機関からの融資条件は、鉄筋コンクリート造で建替前と同じ8住居の実現。
建築基準法上の主要用途を『共同住宅』ではなく、共用部分を持たない『長屋』とすることで、8住居からなる都市型集合住宅を実現することができました。


共用廊下や共用階段をもたないため、各住戸のアクセスは全て敷地内外部通路に面します。

迷宮のように入り組んだ動線は、各住居に個性という付加価値を与えます。