FOUJITA はパリで活躍した日本人洋画家・藤田嗣治を描いています。
監督は小栗康平、藤田役はオダギリ・ジョー。静かな佳作でありました。
映画館に足を運んだきっかけは、BSNHK『英雄たちの選択』という歴史番組で、
太平洋戦時中に描かれた『アッツ島玉砕』という藤田の傑作を知ったことでした。
そこには、印象的で独特の乳白色を基調とした、藤田の作風はありません。
屍の山に銃剣で切りつける兵士達。悲惨で残忍な戦場の狂気を表現しています。
戦時中、一時帰国し、戦意高揚を目的とする戦争画の製作を軍部から依頼されて
描かれた『アッツ島玉砕』は、むしろ反戦への無言のメッセージとなっています。
戦後の状況に嫌気がさした藤田は、フランスに戻り二度と日本の地を踏みません。
最晩年、制作に取組んだ礼拝堂の壁画。キリストに祈りを捧げる人々の列の中に
自らの自画像を埋め込み、静かに世を去ります。
そんな 予習 がなければ、少し印象の違う映画であったかもしれません。
戦前の彼の制作活動。戦時中の彼の仕事。ただ、このふたつを並べただけです。
淫靡で破天荒なパリでの生活と、戦時中の日本での抑圧された思想。
ことのほか、これらを比較し、強調した表現をしているわけでもありません。
勇ましい弁舌や戦闘シーンがあるわけでもありません。
小栗康平監督の映画は 他に『泥の河』と『眠る男』を観ていますが、どちらも
静かに流れる絵画のような作品だったと覚えています。この FOUJITA も同じ。
ゆっくりと 流れるような台詞回し。
美しい日本の風景と、シンメトリーを基調とした構図の多用。
フェルメールやレンブラントを思わせるような光と闇の表現。
静かに それゆえ 力強い反戦へのメッセージです。