横浜市のマンション『パークシティLaLa横浜』杭工事で起きたデータの偽装問題。
10月の発覚を機に他の数々の物件でも不正が明るみになり、社会問題化しています。
『LaLa横浜』での杭工事の工法は 旭化成建材製の既成杭(ダイナウイング工法)
つまり杭は工場で製作され、現場で掘削された杭坑道に設置する、という工法です。
私も30年程前の新米時代には、現場の管理者として杭工事の施工に携わりました。
当時の杭工法の殆どは現場形成杭。既成杭は摩擦杭等のレアケースだったと思います。
現場形成杭とは、現場で掘削された杭坑道内に鉄筋をカゴ状に組んだものを設置し、
坑道底まで挿入したトレミー菅から生コンクリートを打設する、という工法です。
つまり、現場でRC造の杭そのものを作ってしまう、ということ。
坑道の掘削方法によって、地表部分のみにケーシングを設置するアースドリル工法や
坑道内全てにケーシングを貫入させて掘削するベノト工法等がありますが、いずれも
ベントナイト液の水槽や重機、鉄筋カゴの作業場等、敷地内にある程度のスペースが
必要になります。(重機が比較的小さいBH工法等、例外もありますが。)
現在では、敷地の広さに制約が多い都心の小規模建物の杭工事は、支持杭であっても、
(主に鋼管の)既成杭(このダイナウイング工法のような)による工法が一般的です。
ただ、この『LaLa横浜』のように大規模な建物で、敷地に余裕がある計画であっても、
もう、既成杭の工法で施工するのかあ‥。(技術が進んだなあ。)
というのが、今回の杭工事データ偽装問題の報道での、最初の私の率直な感想でした。
現場形成杭であれば、掘削するバケット内に(ボーリング調査での)支持層の土壌を
実際に確認できるわけで、少なくとも支持層未到達という偽装はなかったろうな、と。
データ改竄の不正があったことは事実であり、施工者の責任追及は免れないにしても、
そもそも、この杭工法の選択に 問題はなかったのか。
あるいは、EPJ部分の手摺の2センチのズレ(これは現実にしても)が建物そのもの
の傾斜によるものなのか。(傾斜であるならば)それが杭工事の不備によるとする
ロジックが明確にできているのか‥。
『日経アーキテクチュア』(2015.11.25号)の特集記事『杭騒動・語られない真相』
のツッコミどころが実に興味深い。建築関係者には是非、一読をお勧めいたします。
私もこれまで、既成杭による設計とその設計監理をいくつも行ってきました。
旭化成建材製の鋼管の既成杭を採用し、設計監理もしてきましたが、私の物件では
不正や偽装はありえません。(流行語ではありませんが)安心してください。
EAZETという工法でした。施工計画書や施工報告書を紐解き、振り返ってみました。
ダイナウイング工法では、掘削し坑底(支持層)にセメントミルクを注入してから
既成杭の設置(坑道へ挿入)という工程ですが、EAZETは、スクリュー状のハネが
ついた鋼管杭を、オーガーで直接地盤に揉んでいき、溶接で鋼管の継手をしながら
ねじ込んでいくという工法です。
最初に施工する一本目の杭は 試験杭 となります。
この試験杭の施工では、監理者である私は、設置完了まで現場で立ち会います。
EAZETは工法上、支持層の土壌を実際に確認することはできません。
ボーリング地盤調査から想定された支持層まで実際に杭が到達し、しかるべく根入れ
が確保されたことは、オーガーに設置された計測機(回転トルク値)で確認しますが
(‥計測値は、その場でレシートのようにチャート出てきます。)オーガーを操作する
オペレーターには、体感から杭の支持層到達はわかります。
ですので、チャートは紛失しても支持層への到達は確認した。という、現場代理人の
言い分も、実はわからなくはありません。(もちろん、ダメではありますが。)
試験杭では、このトルク値を現場で生に確認することができます。
それ以後の杭施工は、支持層到達と根入れ確保の確認を、このチャートをFAXやmailで
当方(または構造設計者)の事務所に送ってもらうことで、設置完了を指示します。
(現場でこのチャートをすり替えるのは困難ですし、それをする動機もありません。)
では 実際
支持層が想定された深度まで杭を貫入しても、支持層が現れなかったら(‥トルク値が
上がらなかったら) どう対応するべきでしょうか‥。
支持層は、現地のボーリング地盤調査によって想定されたもの。地中では地層は畝って
存在しているのですから、その杭のポイントでは、もっと深い位置にあるという場合も
(レアケースですが)ありえないことではありません。
その場合は、支持層が現れ根入れが確保できる深度まで、かまわず杭をねじ込みます。
既成杭ですから、杭そのものを長くすることはできませんので、杭の設置位置(深度)
が深くなってしまいます。
その調整は、杭に絡む建物本体の基礎を、構造設計により大きくすることで対応します。
ただ、これは追加工事になります。
工期延長や工事金額の追加が発生することになりますが、いたしかたないところです。
建主の方には、受け入れていただくしかありません。
建主と請負者との間柄に、このフローが成り立たないようでは、不正は絶えません。
第三者としての設計監理者の必要性も、ご理解いただけますでしょうか。