2019年6月7日金曜日

閉じた空間としての住宅、そして家族


ここのところ『中高年のひきこもり』の問題がクローズアップされています。
少し前には『家庭内での児童虐待』の社会問題も大きく報じられていました。
いずれも、要因や対策などを軽々に論じることは差し控えたいのですが、ひとつ
『家庭』という閉じた関係性の中、『住宅』という密閉された空間で起きている
ことは共通している、といえます。

『住宅』が密閉化へ向かっている方向性。
住宅の省エネ化を掲げて、断熱性・気密性の向上へと向かう基準や規制の方向と
どこかリンクして感じています。
もちろん、住居における消費エネルギーや二酸化炭素排出量を抑えていくことは
地球環境を守る上で必要なことですが、エアコンの効率を最優先に個室に細かく
区切ったり、外部環境との遮断を優先していくことに、違和感もあります。
(‥ただ当然、エアコンも近年の猛暑の気候を考えれば絶対に必要な設備です。)


日本では 空間や時間、様式のうえで
真(しん)・行(ぎょう)・草(そう)   という 三相の考え方 を持ちます。
例えば 書 の様式。
フォーマルでキチッとした 真書体 という書体にたいして、
カジュアルで崩しのはいる 草書体 という書体があります。
その中間の曖昧な領域として 行書体 が ひとつ存在します。

日本の住宅でいうならば
外部と内部との曖昧な領域として 縁側 が思い浮かびます。
例えば サザエさんのお宅の 縁側。
タラちゃんが走り回り タマがお昼寝。 波平とマスオさんが縁台将棋。
面した庭の垣根越しに サザエは お隣のいささか先生の奥さんと ちわ話。
縁側には 何か用途があるわけではありませんが、室内のプライベート空間と
外部のパブリック・スペースとの緩衝材となっています。

なにも
サザエさんのお宅のような日本家屋を復興させよう、というのではありません。
プライバシーや防犯性能を確保しつつ、曖昧性を持ったスペース(間)が住空間
の中に、認められていてもよいのでは、と考えております。


都内での集合住宅の計画では、レンタブル比など空間の効率性を重視しながら
安全条例などの規制に従わなくてはなりません。
その結果 敷地内に天空の外部通路が生まれることがあります。
この通路は、建物の全ての住人が日々必ず通る敷地内空間です。
たとえ会釈だけでも、ささやかな繋がりの場になればなあと、期待しています。

『真』と『草』との中間領域 『行』の空間 ということです。