数年前のこと。S区役所から連絡がはいった。
当方で設計監理する工事中のA邸で、建物が道路に越境ています。
という指摘だ。いそいで、現地を確認してみると ほんの数ミリ。
セットバック部分(42条2項道路規定の後退部分)に突出している。
計画当初に建主A氏が示した敷地図が間違っていたようなのである。
いたしかたない。施工業者負担で、S区役所の行政指導に基づいて、
施工中の建物を、すこしけずって修正することになった。
A邸の状況をS区役所に告発したのは、お隣のB氏であった。
B氏はA氏と仲が悪く、A邸新築を快く思っていなかったのである。
ところが、このB氏のB邸。道路に十数センチも越境しているのだ。
ほんの数ミリの越境を行政指導で是正させられた A邸。
十数センチ越境しながら なんのおとがめもない B邸。
違いは、B邸は すでに住んでいること。 住んじゃったもん勝ち。
現在、ある賃貸共同住宅の建替計画のご依頼をお受けしている。
現在の建物は築約40年、現行の耐震基準を満たさず老朽化も激しい。
建替工事のため退去をお願いしている現在の住民のおひとりが、退去
を拒否し、弁護士さんを立ててきた。
そこで、その弁護士・K先生 とお会いしてみると、K先生は、現在の
建物が、現行の耐震基準を満たしていないことを承知していた。
『大きな地震が来たら死んじゃいますよね。』
‥私が“死んじゃう”と言ったのは、住民のことだけではない。
建物が倒壊したら、周囲や通行人にも危害がでかねない。
『大きな地震。来ないかも知れませんよね。』
‥K先生の言われるよう、それならそれに こしたことはない。
ただ、次の一言は 衝撃的 であった。
『そもそも
大きな地震が来ることを、前提にするのが おかしいんですよ。』
姉歯秀次・元建築士の弁護をされたのだろうか…
東京電力の顧問弁護士をされているのだろうか‥
我国では、景観や安全性といった 公共的目的のある価値に対して
『住んでいるのだから』という個人の権利が、幅を利かせすぎてる。
一部で社会問題化している、いはゆる『ゴミ屋敷』の問題もそうだ。
もちろん、やみくもに公共的を主張して権利を行使することも危険
ではるが、法規制のあり方は、バランスを欠いていないだろうか。
B氏もK先生も、その法規制に基づき権利を主張されたのであろうが、
法を司るのは人である。人としてのモラルの問題である。
あくまで、私の個人的な意見です。