「異常はありませんでした。ガンではありません。よかったですね。」
○5月13日 K医科大学病院泌尿器科・外来の診察室 H医師の診断。
やっと この診断結果、いただけたか。
ただ、飛び上がって歓喜!というより、ほっとした!というのが本音。
ガンと診断されたら、治療は拒否するつもりでいたからだろうか‥。
‥‥‥
前立腺がんの疑いをもたれから、この診断が出るまでの数ヶ月のこと。
健康であることの有難さ。医療に従事されている方々への敬意と感謝。
このお休みのうちに、書き留めておこう、と思い立ちました。
私は、医療・医学はまったくの素人です。間違いがあったらご容赦を。
名称のイニシャルは 本当のイニシャルではありません。あしからず。
ちょっと 長いお話し になってしまいました。
‥‥‥
○2月の中旬頃のこと
通知は 人間ドックの結果に同封されていました。
1月31日 当方A病院での前立腺ガン検診の結果をお知らせします。
腫瘍マーカー:PSA 7.51ng/ml (基準値4.0ng/ml以下)
『精密検査を要する』
前立腺とは 下腹部にある男性特有の臓器で、精液をつくる部分だ。
ただ、腫瘍マーカー?PSA? 医学の専門用語を並べられても困る。
痛みはない。ホントにガン ってことあるんだろうか?実感がない。
もちろん、恐ろしい病だとは理解している。亡くなった友人もいる。
人間ドックを受けたA病院に、再検査の予約をいれた。
○2月25日 A病院泌尿器科の外来 S医師による診察。
血中のPSA値は、前立腺ガンの有無をはかる腫瘍マーカーだそうだ。
4~10 で30~40%、10~で50%以上の人が前立腺ガンにあたる
とのこと。最終的には、生体検査といって、前立腺に直接針を刺し
採取した組織にガン細胞があるかで診断するそうだ。‥痛そうだな。
「その前にやってみましょうか?」 と
持ち出された、棒状になった超音波の検査機。嫌な予感が的中した。
むかし、直腸診という、直接指を突っ込まれる診察をうけたことが
ありましたが‥、アア またしても情けない悲鳴をあげてしまった。
「大きさは正常ですね。一応、血液検査 もう一度やりましょう。」
採血をされて、ようやく釈放された。
○3月4日 A病院泌尿器科の外来 S医師による再診察の結果。
「イワマさん、悪くなってます。セイケン(生体検査)勧めるね。」
・PSA 9.38ng/ml(基準値 4.0ng/ml以下)
・F/T比 0.05(遊離PSA 0.44ng/ml)
なんと、先月末の検査でのPSA値より悪くなってる。約1.25倍だ。
「・・ど、どこでできるんですか?」
「もちろん、ウチでもできますよ。年間症例数も○○件あるかな。
ただ、2~3日入院が必要です。おって連絡、待ってますね。」
さすがに 落ち込んだ。
生体検査も痛そうだが、実際 ガンとなったらどうなるんだろう。
『前立腺ガン』の解説本を買ってみる。一般の人にも解りやすい
ようにと、イラスト満載で描かれた治療法・後遺症のその内容は、
親しみやすい表現とはうらはらに、残酷だ。さらに、落ち込む。
はて。 ちょっと 待てよ。
血液中のある成分が ほんの3週間で 1.25倍になる。なぜだ?
『現象には必ず理由がある。』 と 福山雅治もいっていること。
たとえば
昨晩 飲み過ぎましたね? とか、ここんとこ残業つづきですか?
とか 診断結果と同時に そんなふうにいわれるのなら理解できる。
PSA値が上(下)する現象の、その要因 とは なんなんだろう?
‥じつはこの数ヶ月間、診察に関わっていただいた 3名の医師共
この質問にだけは 明確に答えていただけなかった。
それほど、人体のメカニズムは複雑で不明なことも多いのだな。
生体検査を勧めたS医師の態度にも、いささか気になるところ‥。
このとき、思い出した。
あ!お医者さま。いるじゃない。
Fさん。中学高校の先輩でK医科大学を卒業された お医者さんだ。
むかし、やんちゃな遊びもいっしょにした。ご自宅の基本設計も
お手伝いしたな。数年ぶりに連絡すると、快く対応してくれた。
うれしかった。それで病が治るわけではないけれど、こころ強い。
そうか、セカンド・オピニオン とはこういうことか。
○3月8日 R総合病院の外来
F医師は、院長先生になられていた。院内で慕われている様子だ。
再会の挨拶もそこそこに、ここまでの診察の解説をしてくれた。
ここで気づいた。泌尿器系は専門外のF医師(血液系が専門)が
私の診察のため、いろいろ調べてきてくれていたのだ。有難い。
内容は S医師の説明とおおむね同じでも、違うところもあった。
1.前立腺がんの疑いを測る腫瘍マーカーはPSAだけではない。
2.生体検査の他に、断層写真(MRI)による診断方法もある。
私は 生体検査 には 抵抗があった。理由は
1.痛そう。
2.入院の時間がもったいない。
3.そもそも健康である可能性の高い臓器を傷つける抵抗感。
「じゃあ、その気持ちは大事にしよう。」
「もう一度最初から検査、お願いしますよ。客観的な目で。」
その場で、今年3回目の採血、来週の外来を予約した。
○3月15日 R総合病院の外来
「イワマ‥ ビミョウだよ。」(F医師の第一声である。)
・PSA 5.08ng/ml(基準値 4.0ng/ml以下)
・F/T比 0.11(遊離PSA 0.542ng/ml)
A病院での、これまでの数値より良好なのだ。基準値にも近い。
その他の 腫瘍マーカー も
・PAP 1.0ng/ml(基準値3.0ng/ml以下)
・γーSm 1.4ng/ml(基準値4.0ng/ml以下)
と、いずれも 基準値内に収まっている。
「よかったな。これならガンがあっても死んだようなガンだ。」
ガンにも、いろいろあるもんだなあ。ひとまずホッとはした。
そもそも腫瘍マーカー・PSA値とは、あくまでも目安だそうだ。
たとえば、基準値以内(2.0とか3.0)であっても前立腺ガンが
見つかる、ということも(可能性は低くとも)ありえるらしい。
「どうやって、見つかるんですか?」
「転移病巣として、他の臓器にガンが見つかる。その初発病巣
はどこか、と追っていくと前立腺だった、ということだね。」
私の場合、他のガン検査はクリアしているので、これはないな。
「次のステップだ。MRIの断層写真も撮ろう。何時がいい?」
F医師にMRI専門のクリニックを紹介され、予定をいれてもらう。
その診断結果は、次回の外来のさいに、となった。
○3月15日 R総合病院の外来
「イワマ‥ ビミョウだよ。」(またしてもF医師の第一声)
MRIの断層の写真集は、一枚のCDにまとめられていた。
一枚のヘーパーに、診断の概要がまとめられていた。
前立腺ガン:疑い
「一応、生体検査は受けたほうがよいな。いいだろ?」
さすがに 私も ここで覚悟を決めた。
生体検査は、F医師の出身校であるK医科大学病院にお願いする
ことにした。早速、泌尿器科への紹介状を書いていただいた。
○4月3日 K医科大学病院泌尿器科・外来の診察室
担当のH医師による問診と、入院の手続き。
生体検査と入院は 4月24日~25日 ときまった。
そんなおり 書店で 本に出会った。
‥‥‥
店頭に 第60回菊池寛賞受賞 というフレコミが踊る。
『がん治療で殺されない七つの秘訣』 近藤誠
また、ずいぶんと過激なタイトルだなあ。
近藤氏は、『患者よ、がんと闘うな』『がん放置療法のすすめ』
といったタイトルは知っていた。ガンとの共存がテーマだろうか。
どれどれ‥ どころか ビックリだ!
入院後4ヶ月で亡くなった中村勘三郎さん。ガンで亡くなったの
ではなく、ガン治療で殺されたと断言。オブラートなしじゃない。
警鐘への信念。それを裏付ける確信。
統計数値など客観的根拠に基づく論理は、たしかに説得力がある。
近藤氏の根幹のロジックは、(例外はあるものの‥)基本こうだ。
ガンの細胞増殖は もともと ひとつのガン幹細胞からはじまる。
このガン幹細胞に、他の臓器に転移する能力があれば ガン細胞
そのものにも、転移の能力が発生する。 これは 本物のガン。
ガン幹細胞に転移する能力がなけれな、ガン細胞にも能力はない。
これは ガンモドキ。(本物のガンじゃない。)
一般にガンの早期発見は、ガン細胞の増殖からすれば、もう晩期。
早期発見されたガンが 本物のガン ということであるのならば、
血液を通してすでに転移していると考えられる。
手術などの患部への治療は、無意味どころか逆効果。
早期発見されたガンが ガンモドキ ということであるのならば、
そもそも悪さ(転移)をしないので、これもまた治療の必要なし。
‥アッ!と 膝をたたいた。
そうか あのとき、F医師が口にした『死んだようなガン』とは
近藤理論でゆうところの この『ガンモドキ』のことじゃない。
転移の理論も一致するではないか。
点と点が結び、ひとつの線になり、開放されたようだった。
とはいえ、この近藤理論も 見解のひとつにすぎないはずだ。
(‥本書の中では PSA値は全く無視して大丈夫、とあるが。)
ここは ひとつ
生体検査は きっちり受けて、気持ちの整理はつけておこうか。
‥‥‥
「無治療が最高の延命策」
「検査を受けないのが最良の健康法」
近藤誠氏の主張は、じつは ガンの治療方法のことではない。
常識を疑え。
68年以上前、日本は神風が吹くと信じていた。
神風が吹き、日本はアメリカに勝利する、と。
25年ほど前には、こんな神話に縛られていた。
『 土地の価格は絶対に下がらない 』
そして、ほんの2年半前までは、こうだった。
『 原子力発電所は安全な施設 』
常識か?
常識を疑え。