2013年7月31日水曜日

リアルに 風立ちぬ


(読み返してみると ネタバレ っぽいので ご注意を。)

宮崎駿監督の最新作 『風立ちぬ』 とってもよかった。
上演後には、まさにひとつじの風が吹きぬけたごとく、爽やかな
心地よさ。上品な空気のながれる、おちついた大人の作品である。

ただ、想像していた作品のイメージとは、だいぶ違ったものだ。
試写会では宮崎氏自身が号泣したとか、前評判や知人の感想など
どンだけ泣かされるんか? と ヘンな期待をしてしまっていた。
ここは、はずかしい。

主人公、二郎 は
 飛行機づくりの自らの夢を とうとうと語るわけでもない。
 愛する者を失う切なさに、うちひしがれる姿もさほどない。
 飛行機が戦争の悲劇を生んだ事実に、頭を抱えて苦悩しない。
(‥もちろん、そんな感情は いわずもがな、とったところで。)
物語としては、けっして芝居がからず、淡々とすすんでいく。
それは、主人公・二郎のアテレコを(映画製作のプロであっても)
お芝居の素人(フツーの人)が演っているところからも、伝わる。
リアル だ。

宮崎アニメの真骨頂は ファンタジー。リアル とは対局のはず。
ファンタジーとは幻想。現実世界からシフトした世界観であろう。
設定やキャラクターを 現実のいはば『比喩』として表現できる。
そこに メッセージ が盛り込まれてきた。
20数年前に
映画館で号泣し3回続けて観てしまった『風の谷のナウシカ』
(シネコンのない当時は、そうゆうことができちゃったのね。)
紛争や環境問題に、まさに 直球勝負 で立ち向かっていた。
巨神兵 は あきらかに 核兵器 のことを表している。

そんな あからさまなメッセージは もう存在しない。

ただひとつ。
ラストシーンで、主人公・二郎にむけられた 台詞。
『お前は生きろ。』‥
『え! じゃ なんで?』と、思わず心の中でつぶやいていた。
そうか、この『え! じゃ なんで?』こそが メッセージか?

答えは 与えられたメッセージにあるのではない。
自らの中にあるのだ、と。