2015年6月28日日曜日

純・和風建築は粋なモダニズム。遠山邸

日興證券の創設者・遠山元一邸宅、登録有形文化財に指定された和風建築。
都会の喧騒からはほど遠い埼玉県比企郡の田園地帯に、氏のコレクション
が収蔵された美術館とともに、遠山記念館として公開されています。

母、美以のための邸宅は、2年7ヶ月の歳月をかけ、昭和11年4月竣工。
建築家は室岡惣七。大工棟梁は中村清次郎、と記してありました。

未公開の二階に洋間も存在するようですが、純粋な和風建築といっていい。
西棟_中棟_東棟 と 三つの棟はそれぞれ、
数寄屋造_書院造_囲炉裏や茅葺屋根の小屋裏を表しにした田舎風‥ と、
バリエーションをもたせた構成となっている。ただ、そればかりじゃない。
壁仕上、畳、欄間装飾、廻縁竿縁を含む天井貼‥ 全ての部屋で違う仕様。
外観からも、手摺の形状や欄間。屋根も、茅葺の屋根と日本瓦の屋根には
ソリとムクリが混在する。いはば、建築のジャム・セッションの様相です。
施工に携わった職人たちの間には、技の競い合いもあったかもしれません。

和の空間を作り出すためには、各寸法にキメごとが存在します。たとえば、
平面が尺・寸のモジュールであることはもちろん。鴨居の高さ=五尺八寸。
長押の見附=柱の幅で、交点は長押が勝つ。
鴨居や無眼の見附=柱の幅×1/3~1/2で、交点は柱が勝つ。
キメごとが忠実に守られていることで緊張感を保ちつつも、奔放な自由さ
で統一感を失わない。むしろ、上品な躍動感を感じる空間。

そして、大切にケアされ、長く存在することによって生まれる価値がある。
住宅建築が、商品として存在している今日でも、忘れないでいたいですね。







2015年6月23日火曜日

新国立競技場のこと。ふたたび。

ここにきて、新国立競技場の計画の見直しに、再び注目が集まっています。

先月末、舛添都知事に対して下村文科大臣が持ちかけた『500億円出してくれ!』
のいまさら提案。それも、旧国立競技場の解体工事がほぼ完了し改修計画の案へ
後戻りできなくなった段階で、これを出してくるのが文科省やJSCの姑息なとこ。
いよいよもって、この数日中には、なんらか結論を出さざろうえないのでしょう。

昨年、ザハ・ハディド氏の計画案がコンペで選ばれたことで、巷に物議が生まれ
建築関係者だけでなく、一般の方々にも注目されたことは、よかったと思います。

私もはずかしながら、このBlogに いくつか生意気な意見を言っています。

建物の高さや威圧感を含め景観のこと。五輪後の維持管理や収益性のこと。
ザハ氏の計画案に異を唱える理由の多くは、そこだったと思います。
私は一貫して、建設に係るイニシャルコストの問題だと書いてます。

ザハ氏の計画案はカッコイイし、東京にできたらいいなと、私は素直に思えます。
ただ、コンペで要求された計画案の要件は1300億円の予算でつくれること。
もちろん、建設費をピタリ予算の的に納めるのは現実的ではないし、意味も薄い。
ただ、1300億 が 3000億 とは倍以上。これでは全く違う建物と言えます。
〝競技場〟の計画なのに〝美術館〟を計画してきては、それは 失格 でしょう。
もちろん、計画の実現にとらわれず、自らの主張として計画案を提案することは、
建築家としては、ありでしょう。それ自体は非難されるものではないと思います。
かつて都庁舎のコンペで、あえて低層の計画案を提出した磯崎新氏のようにです。

ようは、ザハ氏の計画案が最終的に選出されるにあたり、計画案の建設費見積が
コンペ主催者側から審査員にきちんと開示され、選考に加味されていたのか‥?
そこがはっきりせず、たんにザハ氏や安藤氏を非難するのには違和感があります。

最終選考に残った ザハ氏の案以外の計画案の中には
この厳しい予算条件を意識し、1300億に納めた計画案もあったかもしれません。
もし、一から選考をやり直すということであるならば、これらの案から選ばれる
べきでしょう。(いまさら現実的ではありませんが。)

尊敬はしていますが槇文彦先生のザハ案への非難にも、私は違和感があります。
建築家たるもの、反論には自らの対案の計画をもってしてするべきでしょう。
まして、槇先生はブリツカー賞受賞者として、コンペ案が提出できたはずです。
そうしていれば‥ で、私の計画案は1300億で納まりますが、なにか‥? と
この一言で、いまごろ全てのゴタゴタが片付いていたかもしれません。


さて 建築専門誌『日経アーキテクチュア 2015.6-10号』 に
新国立競技場見直しに関する 興味深い記事がありました。メからウロコです。
自民党の牧原代議士提案の、ある民間企業による新国立競技場建替計画案です。
神宮外苑の再整備計画と絡めて3ステップに分けて整備していく計画案ですが、
このごにおよんで、現実的ではありません。注目は 建物ではなく おカネ!

この計画では、スタジアム運営の年間収支を
プロスポーツなどの施設利用料で 年間50億のプラス と見積もっています。
(JSCの見込みは 3億のプラス)
そして、おそらくJSCは考えもしなかったでしょう、投下資金の回収見込みが
民間運営により 25~30年で回収 とあります。これは、五輪後におこなう
スタジアムを開閉ドームに改修する工事費:350億円の回収のことでしょうが、
維持費が収益に対してプラスかマイナスか、といった議論をしているところ、
お金を回収する という発想。 さすがの民間企業さんです。

かりに、このイニシャルが 500億円 だとしたらどうでしょう。
年間50億の収益、というなら 実質利回り10% です。
40億になっちゃった としても 8% です。 それでも優良事業でしょう。

つまり、都は国に500億出してあげるバーターとして、五輪以降特定の期間
スタジアムの運営権と命名権をいただいちゃいましょう。(競技場の名称は
東京国立競技場か グーグル・スタジアムか、アップル・スタジアムか‥)
運営する代理店は入札で決めるのでしょうが、プロスポーツだけじゃなく、
ポールもサザンもドームではなく、こっちで演ってもらいましょう。
国やJSCが使いたいというなら、逆に使用料貰えることにもなります。

都にキャッシュがないなら、銀行融資を受けましょう。なにせ担保の不動産
は国の所有です。規制があるのなら、都民債みたいなものもありでしょうか。

投資やファンドで儲けるのと違い、スポーツ・文化の促進事業でもあります。
たとえば、東京マラソンの スタート・ゴールはこのスタジアムになります。
(五輪と同じコースでしょう。)ここでの広告収入も期待できますね。

もしも 実現できるのであれば
500億円 安くない? > 舛添さん。


2015年6月21日日曜日

海街diary_映画は監督の作品3

是枝裕和監督 『海街diary』 大拍手。
鎌倉の四季で織りなされた、少し複雑な関係の四姉妹の機微。
映像も音楽もすばらしい。
こころに清涼な風が吹き抜ける、爽やかな作品。秀作でした。

ただ ちょっと意外だったのが
誰も知らない や そして父になる の子供達の演出のような
是枝さん流のアドリブチックなハプニング感が見られないこと。
たとえば、四女の すず という名が、そのままであったのは、
彼女に自然な演技をさせるためなのかな、と考えていましたが
どうやら、たんなる原作との偶然のようです。
共演のベテランぞろいの俳優陣も華があって、素人感はゼロ。

つまり、全て計算されているのね。といった段取り感。

たとえば、長女の幸がすずに 一緒に暮らそう。…と言い出す
それまでの数分間で
仕草、いでたち、きこなし、立ち位置で彼女たち四人のキャラ
を説明しきっていて、あとはまあ 大それたことは起きないな
という安心感が、じつに心地よい。

攻殻機動隊 やら ジュラシック やら スターウォーズ も
今年これから観たいけど。その前に 薄めのお茶を一服。


RE:SETな6月

ここ最近、個人的に、環境や状況でいろいろ変化が起きました。
少しゆとりが生まれ、新しいチャレンジへのファイトとともに、
心機一転、思うところも出てきました。

‥断捨離をしよう。
重宝してるクラウドDropBox。MacOS10.4のサービス終了と。
私のPowerBook(PowerPC最後の機種)も、いよいよ引退へ。
困った。仕事の勝手を考えると、やはり新しいiMacが必要だな。
VectorWorksもヴァージンアップか…。(おカネかかるなあ。)
いや、その前に事務所内の物理的な整理整頓しないといけない。
そもそも もう一台iMacのスペースなんかないぞ。
と いうことで、おもいきって事務所内の断捨離を決意。

‥健康と体力づくりだ。
ネット世界の住人になって、はや20数年。
ITのおかげで、それ以前から仕事の効率は格段にあがりましたが、
反面、PC操作の身体へのダメージは、実感する以上に大きいです。
これまでも週一回の運動(水泳)と月二回はマッサージとお灸が
欠かせませんでしたが、もう少しなにか考えねばなりますまい。
なかなか疲れが取れにくい。ただ、歳のせいにはしたくない。
仕事は100歳まで、生涯現役が目標です。

…感謝の気持ちをもつ。
つきなみな物言いですが、本音です。
仕事で感謝の意をいただけば、それは返していかなくていけない。
近しいひともふくめ、これまでに関わりを頂いたすべての方々へ。
そんな想いを、この歳にして新たにするのです。
メディアでインタヴューを受けている若いアスリートたちの口から
よく この『感謝』という言葉を耳にします。それもごく自然に。
同世代の頃の自分を思えば、じつに立派。成熟は年齢じゃないな。

と そんな思いを持つ、今日この頃です。
六月の花 花菖蒲とともに。

2015年6月15日月曜日

静かな住宅街の狭小地に提案する専用住宅

20坪に満たない敷地(U20)に 40%の建蔽率と80%の容積率。
厳しい条件ながら、床面積としてカウントされない地下階やロフト
を活用し、最大限の居住スペースを確保します。
相談に来られたご家族のかた。
この土地を購入し、ご自宅を建築することは決めているのですが
不動産やさんから参考にと見せられる間取に、魅力を感じません。
こういったプランニング集に共通することのひとつが、既成概念
に囚われて作成させている、ということ。
周囲を囲まれ日当たりは期待できない南側のスペース(お庭)。
はしっこに押しやられた窮屈な階段。既成品の建具寸法など‥。

考え方を解き放しましょう。もっと、シンプルに。
新生活も きっと もっと自由な感覚になるはずです。




建築空間のリアルとバーチャルとギャグと‥。

打合せの帰りみち、ギャラリー・間 藤本壮介展 に滑り込む。
入場制限の行列ができている。ギャラ間の展示会で初めて見た。
先週末は展示の最終日ということでかと聞けば、そうではない。
建築家・藤本さんの人気のようだ。すごい。

フランスに計画中というバルコニーのお化けのような集合住宅等、
実現した計画に圧倒されつつも、面白い試みの展示空間でもある。
洗濯バサミ・灰皿・紙きれ・台所スポンジ・グレーティング・石ころ‥
こんな身近な代物を そのまま建築的造形に見立てている‥。
これって ギャグ!?
白い四角い箱や家の形をそのまま積み上げたごとくの 集合住宅は
なにコレ珍百景的世界観ではないか‥。

けして批判ではありません。誤解なきよう。

これまでにない、柔軟な思考と切り口で、建築空間を描いている。
こんな自由な翼を持てるだけでも、氏の才能は評価にあたいする。

ただ 建築空間をつくるとなるとリアルなはなし。
地球には重力があり、日本には大きな地震もくる。
建築家は、カネや時間と格闘し、意見を取りまとめる仕切り役で
あることも要求されています。
そこはまさに、昨今の新国立競技場問題からもよく見えるところ。

藤本氏には、いつか
現場で職人と 取っ組み合いのけんかをしている姿を見てみたい。
リアル と バーチャル と ギャグ の接点として…。




2015年6月1日月曜日

サンドラの週末を平日に。

毎日新聞の日曜版に連載されている藤原帰一さんの映画評論を、毎週
楽しみにしている。主に紹介されているのはハリウッドの超大作よりも、
ヨーロッパのマニアックな小作品が多いように思う。
今日は1日 映画の日。 
仕事の筆を休めて、先週末に紹介されてた『サンドラの週末』を鑑賞。

金曜日の午後
病気で休職していた主人公(サンドラ)が、職場から解雇を伝えられる。
彼女の復職かボーナスの支給か、同僚16人の投票できまる。
投票は月曜日の朝一番。
サンドラは週末、同僚ひとりひとりに、ボーナスを諦めて自身の復職に
一票投じてくれるよう、説得に奔走する‥。

はて。そもそも こんなストーリーで、映画になるんかいな?
案の定。
期待されるようなドンデン返しも、スカッとするよな勧善懲悪な展開も、
なんにもない。ただただ、人物のキャラや表情を丹念に描いているだけ。
説得するシーンは、同僚全て描き出し、しかも説得するセリフは同じ‥。
そのむかし、北野たけし監督が
一人の人物が何人もの人物を殺害する、というストーリー展開の場合。
最初の殺害場面を丹念に描き、その後は、血糊やナイフといったものを
映し出すことによって場面をハショれる‥、といった演出方法を語って
たのを思い出します(‥数学の因数分解とひっかけて語ってたな。)が
それと、まったく 逆 の手法です。

ただ、それでいて 間のびしない。
どこか、腑に落ちるところがある。

仕事があって、お金を得られることは、ありがたいけど大変だ。
がんばろう。